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東京地方裁判所 昭和27年(ワ)5304号 判決

原告

株式会社大阪造船所

被告

株式会社田中鉄工所 外一名

主文

被告株式会社田中鉄工所は原告に対し別表(省略)(二)表示のポンプの引渡をせよ。

被告らは各自原告に対し金十四万円及びこれに対する昭和二十七年八月七日から完済するまでの年五分の割合による金員の支払をせよ。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを五分し、その三を原告の負担、その余を被告らの負担とする。

この判決中、原告において、ポンプ引渡の部分について被告株式会社田中鉄工所のため金二十万円、金員支払の部分について被告らのため金三万円、の各担保を供するときは、右各部分を仮に執行することができる。

事実

(省略)

理由

一、被告会社に対するポンプ引渡請求について

別表(一)(二)表示のポンプを含む船舶用ポンプ五十二台は船舶公団の所有であつたが、被告会社がこれを製作納入した関係上、被告会社が船舶公団のためこれを保管していたところ、原告は昭和二十五年十二月六日右ポンプ五十二台を代金六十五万九千九百六十四円で船舶公団から買い受けてその所有権を取得したこと、被告会社は原告に対し右ポンプのうち合計十二台を引き渡したが、その残りのうち別表(二)表示のポンプ二十一台を現在なお占有していること、は当事者間に争いがない。被告会社は、昭和二十六年六月下旬被告会社と原告の代理人石川雄三との間に成立した交換契約によつて別表(一)(二)表示のポンプ合計四十台の所有権を原告より取得したと主張し、証人竹島和雄、同田中耕司(第一、二回)及び被告本人田中幸雄は、右交換契約が原告会社の社員石川雄三と被告会社の専務取締役田中耕司との間に成立したかのように供述しているが、しかしながら右各供述部分は証人石川雄三(第一、二回回)の証言及び本件弁論の全趣旨と対比していずれも信用するに足りず、他に右両名の間に交換契約が成立したことを認めるに充分な証拠はない。しかも石川雄三が当時原告会社を代理する権限をもつていたことを認めるに足りる証拠もなく、かえつて証人石川雄三(第一、二回)の証言によれば、石川雄三は原告会社東京出張所に勤務する原告会社の単なる一社員に過ぎず、原告会社を代表してまたは代理して第三者と契約を結ぶことのできる権限などは当事も現在ももつていないことが明らかである。してみれば被告会社のこの点に関する主張は失当であり、被告会社は原告に対し別表(二)表示のポンプの引渡をする義務があることは明白である。

二、被告らに対する損害賠償請求について

被告田中幸雄が、被告会社の代表取締役としてその業務を執行するについて、昭和二十六年六月頃から昭和二十七年四月頃までの間に、別表(一)表示のポンプ十九台を解体し、その部分品の一部を被告会社所有のポンプの部分品として使用し、その他はすべてスクラツプとして溶解し処分したこと及び別表(二)表示のポンプを占有中昭和二十六年六月頃から昭和二十七年八月頃までの間に右ポンプの部分品中別表(三)表示の各部分品を盗難にかかり紛失したことは、被告らの自認するところである。そして被告会社の右ポンプの保管がその営業の範囲内に属することは、さきに認定したところから明らかであるから、保管料を受けないときでも、被告会社がその保管につき善良なる管理者の注意を要することは、いうまでもないことである。ところで被告会社が右各ポンプの所有権を交換により原告より取得した事実の認められないことは、前記説示のとおりであるから、被告田中幸雄は原告所有の右ポンプ十九台を権利なくして解体しかつ処分したことにより原告の右ポンプ所有権を侵害したことは明らかであるが、同被告が右所有権侵害当時右ポンプ十九台の所有権が原告にあることを知つていたと認めるに充分な証拠はない。しかしながら同被告は、本人尋問に際し、自分は被告会社の社員竹島和雄から、原告と被告会社との間に別表(一)(二)表示のポンプ合計四十台と、原告が被告会社に発注した新造ポンプ三台とを無償で交換する契約が成立し、話し合いはすつかりついたとの口頭の報告を受けたので、被告会社は完全に右ポンプの所有権を取得したものと信じてその解体処分を命じたものであると供述している。そして被告田中幸雄が真実そのように誤信していたものとしても、その誤信を相当とする特段の事由、殊に竹島和雄の右口頭の報告を裏づけるに足りる資料がないのであるから、進んで調査する等の注意をすべきであるのに、これをしたことの認められない本件においては、同被告は右ポンプの解体処分について過失の責を免れることはできない。もつとも成立に争のない乙第三号証及び被告本人田中幸雄尋問の結果並びに本件弁論の全趣旨によれば、原告が昭和二十六年五月二十六日被告会社に発注した新造ポンプ三台の代金は合計百四十三万円であつて、その三分の一を契約時に残額をポンプ納入後にそれぞれ支払うこととなつているのに、被告田中幸雄が右ポンプの解体を命じた当時なお全部が未払いの状態になつていたことが認められるが、しかし契約はともかく請求がなければ代金の支払をしないということは往々にみられるところであり、証人石川雄三(第二回)の証言によれば、原告も被告会社から請求がなかつたので右代金の支払をしなかつたに過ぎないことが認められるから、右代金の支払がなかつたからといつて被告田中幸雄の右誤信を相当と認めるわけにはいかない。次に別表(三)表示の部分品の盗難について被告田中幸雄に過失があるかどうかを考えるに、右盗難の時期について被告らは昭和二十六年六月頃から昭和二十七年八月頃までの間であると自認しており、成立に争のない甲第二十二号証、証人岩田正美、同田中耕司(第二回)、同小川甲子治の各証言及び本件弁論の全趣旨を綜合すると、右盗難は被告田中幸雄が原告の再三のポンプ引渡請求にもかかわらずこれに応じないで、別表(二)表示のポンプを被告会社の工場において保管していた間及び訴外遠山照夫の工場に移転して同人に保管させていた間に起つたものであること、が認められる。そして被告田中幸雄が右ポンプを遠山方に移転したのはこれを被告会社の所有するものと誤信したからであろうが、同被告そのような誤信を相当とする特段の事由の認められないことは前記説示のとおりである。してみれば右部分品の紛失についてもまた同被告に過失があるといわなければならない。

したがつて、被告田中幸雄は民法第七百九条により、被告会社は同法第四十四条により、各自、別表(一)表示のポンプの解体処分及び同(三)表示の部分品の紛失によつて生じた原告の損害を賠償する義務を負うことは明らかであるる。

よつて進んで損害の数額について判断する。鑑定人松原俊一の鑑定の結果によると、別表(一)表示のポンプ十九台及び別表(三)表示の部分品をその滅失当時に新たに製造するとすればそれに要する総原価は、少くとも、前者について金五百五十万円、後者について金九十万円を下らないものと認められるが、成立に争のない甲第一号証、弁論の全趣旨によつて真正に成立したものと認める甲第十一号証及び証人田中耕司(第一回)の証言並びに本件弁論の全趣旨を綜合すると、右ポンプ等はいずれも昭和二十三年頃から昭和二十五年の春頃までに製造されたものであるが、滅失するまで二年から四年ぐらいの間、工場に蔵置されたまま別段適当な保存措置も講じられていなかつたこと、船舶公団は右ポンプの製造された頃に右ポンプを含む船舶用ポンプ五十二台を合計金六百九十四万余円で被告会社から買い入れたものであるところ、昭和二十五年三月船舶公団の解散に際し、関東地区所在の右ポンプ始め船舶公団所有の大量の各種船舶用品を一括して競争入札に付したが、その際右物件の総重量を約二十七万五千瓩と見積り、これの売渡予定価格を金二百万円と定めたこと、船舶公団は始めは個々の物件を買取価格の約半分の価格で業者に払下げようとしたが、買取希望者がないので次第に価格を下げていき、結局右金額で一括して競争入札に付することになつたこと、原告はこれを金三百三十八万円で落札したのであるが、このうち右ポンプ五十二台に相当する金額は六十五万九千九百六十四円であつて、船舶公団が被告会社から買い入れた価格の約一割に過ぎない価格であつたこと、したがつて公団の買入価格が合計約二百万円である別表(一)表示のポンプ十九台の落札価格は約二十万円にしか相当しないこと、が認められる。もつとも右のように大量の物件を一括して購入するときには一般的に個々の物件の単価は低下するものであり、また競争入札による落札価格が必ずしも当時の交換価格を正しく反映しないこともあるし、本件弁論の全趣旨によつて真正に成立したものと認める甲第十三号証によれば、現に原告は落札したポンプのうち合計五台を新造船大造丸に使用していることが認められるから、船舶公団が右ポンプ等をすべて使用に耐えないスクラツプとして入札に付したとも考えられないが、しかしその滅失当時の交換価格は落札時より滅失当時までの一般物価の上昇を考慮に入れてもなお滅失当時の製造原価をかなり下廻るものであることは明らかである。これらの事実を考量して、別表(一)表示のポンプの滅失当時の時価は製造原価の約四分の一に当る金百三十五万円、別表(三)表示の部分品のそれは同じく金二十二万円を下らず、したがつて、原告は右各時価相当額の損害を蒙つたものと認定するのが相当である(鑑定人渡辺為次の鑑定の結果のうち右認定に反する部分は信用することができない)。

したがつて被告らは、各自、原告の蒙つた右損害金合計金百五十七万円のうち、原告が被告会社に対し負担する前記新造ポンプ代金債務と相殺した旨自陳する金百四十三万円を控除した残額金十四万円及びこれに対する右各不法行為の後である昭和二十七年八月七日から完済するまでの民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払をする義務があることは明らかである。

三、結論

よつて原告の本訴各請求は前認定の限度において正当としてこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却しし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条、第九十二条、第九十三条、仮執行の宣言について同法第百九十三条、仮執行の宣言について同法第百九十六条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 藤原英雄 立沢秀三 山木寛)

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